複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

複雑な世界、単純な法則  ネットワーク科学の最前線

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

著者は『ネイチャー』、『ニューサイエンティスト』誌の編集者を務めたサイエンスライター
インターネット、生態系、インフラストラクチャー網、脳細胞など様々なネットワークを分析し、その共通項を探求するネットワーク科学の本です。昔の新聞スクラップを片付けていたら、たまたま当時の書評を切り抜いていたので読んでみました。

学者の研究事例と解説をふんだんに盛り込んでいてわかりやすい本なんですが、ネットワーク科学自体がまだまだ発展中の学問らしく、あんまりまとまっていない。総論的にさらっと読むにはいいと思います。ウィキペディア複雑ネットワークの項六次の隔たりの項あたりを読んで興味があったらという感じ。


個人的に印象に残ったのが還元主義の限界を指摘していた点。

還元主義(リダクショニズム)

複雑な事物を単純な構成要素に分解すること。システムや思想は、全体から切り離した要素や簡単な概念に基づいて完全に理解することができるという考え方 297p

著者はエイズの流行ネットワークが、分解した個別の要因(ウィルスやヒトの生物学など)を理解しただけでは何の手がかりも得られないことなどを挙げ、

システムは個々の要素と、それら要素間の相互作用に基づいて、初めて完全に理解することができる。298p

ネットワークの構造は、ネットワークを構成する要素の特性ではない。あくまで全体としての特性なのだ。298p

と述べている。ロジカルシンキングというのが巷で流行っていますが、あの類の本を読んだときの後味の悪さは多分こういうところから来ているのだと思いました。現実はズバズバ論理でぶった切れるほど単純には関係していないというか。言語・文字というソフト自体の制約もあるし。


人間のコミュニティ(政治組織、企業組織、都市コミュニティ、地方コミュニティなど諸々)にこういったネットワーク科学の理論が、将来的にどのような影響を与えるのか非常に興味があります。ここ数年の間でも、資本と労働力の流動化が進み、都市と地方の格差が拡大するなど様々な変化が起こっています。様々な要因がこうしたコミュニティの変化に影響をもたらしているのでしょうが、従来の個別具体的な対症療法で状況がどうにかなるとはあまり思えません。ネットワーク理論を通してこのような事象を見ることで、何か総体的な特徴が発見でき、とるべき対応もわかってくるのではないかと思います。引き続きこの分野は勉強していきたいと思います。


メモ:サプライチェーンのネットワークとしての大規模小売業が、一種のクラスターとして、地方の商店街を駆逐しているのはネットワーク科学的な現象だと思う。うちの地元はまさしくそのケース・・・。