巨象も踊る

巨象も踊る

巨象も踊る

有名な1990年代のIBM建て直しの本。著者ルイス・ガースナーは現在カーライルの会長をやっております。
財務資料や社員へのメールなども含めると460ページほどある中々読み応えのある本です。

メインフレーム偏重の事業構造と内向きの官僚主義的企業文化が要因で、一時期は潰れるとも言われていたIBM。それをマッキンゼー、アメックス、RJRナビスコとわたり歩いてきたガースナー氏がバシバシと改革していく様子が淡々と綴られています。
良い戦略の立案とその徹底的な実行。ガースナー氏がすごいのは後者を本当にやってしまうあたりだと思います。従業員が万人単位でいるような大企業において、蔓延する停滞感と強固な抵抗勢力を打ち破るにはリーダーとしてとてつもないエネルギーが必要だったと思います。理想や目標を掲げるのは簡単ですが、日々の生活でも中々それを実行することは難しいです。個人単位でも難行なことを数年で大企業において可能にしたところに氏の企業を率いる指導力が現れていると感じました。口だけじゃないということは凄いことです。

因みに氏は社会貢献の面でも著名で、公教育の発展のために様々な寄付、ボランティア協力を行っているとのこと。911の際のIBMの対応にもページが割かれていますが、こういった社会的活動はアメリカの良い側面を体言していると思いますし、日本も見習うべきところであると感じました。

しかしながら、やはり相当の事業変革をやったのでかなりの矛盾や齟齬も生じたようです。
amazonの書評には以下のようにありました。

この本はIBM-USのHQである YorkTown から見た場合の話だ。

彼らが立ち上がるためにIBM-Japanが失った「黒字製品群」。
彼らを黒字扱いにするために押し付けられた「赤字製品群」。

それらを称して「大胆な改革」と呼ぶ者には脳震盪とダンスの違いも判るまい。

本書を良書と呼ぶ人がいるのは結構。しかし、これが自伝に過ぎないことを忘れてはいけない。彼が何をやったと思っているかと、実際に何が起こったのかの違いを考慮せずに彼を真似ても、成功はしないだろう。

全体最適部分最適の集合ではないということか。うーん・・・。
そうなるとグローバル企業にとって、これからシュリンクしかねない日本市場というのは非常に微妙かも。

最後に2つ抜粋。

ガースナー氏がオフィスに掲げていた標語

世の中には4種類の人がいる。
 動きを起こす人
 動きに巻き込まれた人
 動きを見守る人
 動きが起こったことすら知らない人

付録「eビジネスの未来」より

私はハイテク産業でほぼ十年を過ごしてきた経験から、この産業が作り出してきた技術が素晴らしいものだと確信をもって断言できる。しかし、技術がすべての回答を与えるとはまったく考えていない。技術は、差別、貧困、不寛容、恐怖など、きわめてむずかしく、きわめて重要な問題、人類がつねに抱えてきた問題を魔法のように解決できるものではない、これらの問題は人びとが必死に努力しなければ解決できない。自由な意思と自立の精神をもち、選択し決定し、考え推論し、利用できる手段を活用して、最大多数の最大幸福を実現する能力をもつ人たちが、そうした解決策を編み出していくのだ。