誰のための会社にするか

誰のための会社にするか (岩波新書)

誰のための会社にするか (岩波新書)

「会社は誰のものか」と「会社は誰のためのものか」。
前者の問いに対してはアメリカ型の株主資本主義の席巻によって「株主のもの」であるという答えが昨今確定的なものになりつつあります。本書は後者の問いに対する考察であり、様々なステークホルダーを持つ企業の活動において、バランスのとれた制度を確立する必要を主張しています。

企業のステークホルダーとして株主、従業員、地域コミュニティー、政府、顧客などが挙げられます。支配的な風潮になりつつある「株主の所有物としての企業」としての側面を追い求めていくだけでは(すなわち極端に営利を追求していくばかりでは)その企業が真に社会に貢献していることにはならないのではないでしょうか。
元来のいわゆる日本的経営においては、ステークホルダーとしての従業員を優遇してきましたが、株主資本主義の台頭、労働組合の弱体化、労働力の流動化などにより必ずしもそれが企業経営にとってプラスにばかり作用する環境ではなくなってきていると思います。
著者は株主の権利が強化される一方の昨今の風潮は行き過ぎであるとし、多少偏重している日本の従業員重視の企業経営を他のステークホルダーの利益も考慮しつつ調整していくべきだとしています。

上記のようなバランスの取れた視点はこれからの企業活動、ひいては一個人にとって重要なものだと思います。正味な話、企業経営といわれても実感がわかないところはありますが、個人ベースに落として考えてみれば家族や友人、住んでいる地域などなど色々なコミュニティーが個人の生活にもあるわけで。一つのコミュニティーに偏重しすぎるとおかしなことになりますよということだと受け取っています。