ITとカーストインド・成長の秘密と苦悩

ITとカースト―インド・成長の秘密と苦悩

ITとカースト―インド・成長の秘密と苦悩


エコノミスト伊藤洋一氏の著作。
私は氏の日経でのポッドキャスト番組を聴いているのでその関係で読みました。


伊藤洋一のRound Up World Now !
http://www.radionikkei.jp/roundup/


伊藤洋一のビジネストレンド
http://www.nikkei.co.jp/bizpodcast/



以下軽く本の要点まとめ


・インドは他民族、多言語、他宗教でとにかくごちゃごちゃ。国民のうち大体8割がヒンズー教徒だがイスラム教徒も一億人くらいはいる模様。イギリスの植民地支配の関係で公用語は英語だがヒンズー語や地方によっては方言なども有力。


・大部分のヒンズー教徒の影響でカースト制度がいまだ根強く社会に残っている。大体推定で3000くらいのカーストがあるという説も。カーストごとに身分、職業が世襲されるのが基本。輪廻思想に基づいた現世でカースト固有の職業に勢を出せば来世で上位カーストに生まれ変わるという考え方がある。都市部はともかく地方、田舎はこういった宗教上の縛りが強い。


・国は憲法カーストの存在を認めていないが色々と政策でフォローしようとしている。大学のSC(指定階級=低カースト階級)、ST(指定部族)の優先入学枠が有名。現在SC、STあわせて定員全体の22.5%だが4割程度に持っていこうという動きがあり社会問題化している。因みにこうした優先入学枠で入学する生徒は教育水準、経済水準で一般枠の入学者とはかなりの隔たりがある。


カーストによる職業選択への影響で長らくインド経済は停滞していたがカーストで縛られないところに出てきたのがIT産業。英語が公用語であるのと数学に強いインド人の適正があいまってヨーロッパ、アメリカからの時差を利用したアウトソーシング受注が盛ん。最近ではR&D部門の移転も起こっている。バンガロールやムンベイなどが発展している。


・教育面で有名なのはIIT(インド工科大学)、IIM(インド経営大学)、あと医科大学。優秀なのはアメリカとかに行ってしまうらしい。医療面では水準が高い割りに金銭的に安いのでヨーロッパとかからの手術ツアーが人気。


・インド経済を支えているのは大きな財閥。リライアンス、タタなど。人種的にはペルシャ系、シーク教徒が多い。蛇足だがインド人のターバン巻いてるイメージはシーク教徒のもの、今のシン首相もシーク教徒、ヒンズー教徒はターバンしない。


・IT産業などの発展の裏で国民の8割が携わる農業部門は無茶苦茶。関税や貿易の自由化で競争力のない国内農業は衰退し農民はアップアップ。作付けのための借金を返済できず土地を差し押さえられた農民の自殺者が毎年かなりの数に上る。


・インフラ面は最悪の状態。道路や電気はいうに及ばず地下水の掘りすぎで水がほとんどでない地域もある。普通教育もかなり厳しい状態で農村部では識字率がかなり低い。子供は労働力として見られている側面が強く学校に行きたくてもいけない場合も多い。一部の有力階級の子弟が私立学校や家庭教師等恵まれた教育を受けるのみ。


現在のインドを色々な視点から垣間見ることができる本だと思います。日本で大学いって就職活動なんかをしているとすごく近視眼的になる節がありますがこういう本読んだ限りはぜひ現地に行ってみて実地で見てみたいと思いますな。