リクルートという奇跡

リクルートという奇跡 (文春文庫)

リクルートという奇跡 (文春文庫)

営業ってのはどんな具合にするのかなと思い、営業といえばリクルートだろってことで読んでみました。
著者はリクルートから中学校の校長に転進した藤原和博さん。氏の入社から退社までの経験を通して、山あり谷ありだったリクルートという会社を描いています。

この本を読む前はリクルートに対してマッチョなイメージしかなかったです。読み進めていくにつれて地道な営業活動の裏には考え抜かれた理論や理念があることがわかり、だいぶイメージが変わりました。

以下気になったところをメモ。

情報誌の市場性とは、すなわち、需給ギャップの存在である。将来的に需給ギャップが大きくなるという状態が一番いい。 77P

リクルートのすべての情報誌には、このように読者に“相場観”を与える機能がある。それは情報誌自体がその“正確さ”と“豊富さ”と“タイミングのよさ”ゆえに疑似市場化してしまうからである。持ち歩きのできる“見本市”として株式市場や車のオークションと同じように市場機能を持っているといえよう。 79P

氏は自身の論文で情報誌が市場にもたらす変革を次の3点にまとめています。

  1. 市場の自由化・オープン化機能→市場のイニシアティブを一部の玄人から素人に引き戻す。 EX.不動産取引
  2. 商品の品質向上化機能→情報誌を通して他社と常に比較検討されるので、商品・企業の向上のための内部努力を引き出す。
  3. 資源の節約機能→受け手と送り手のコミュニケーションロスを減らし、コミュニケーションコストを下げる。

このような効果をもたらすリクルートの情報誌は、証券取引所が一般投資家に果たした機能と同様の機能をもち、市場をフェアで競争的なものにするのであります。この点にはある程度同意できますが、結果としてもたらされる状態には殺伐とした印象も感じますな。特に人材紹介や派遣の分野に関しては功罪両面あると思いました。

リクルートのマネジメントは「人間を動機づけるためにはどうしたらいいか」という一点で合理性を衝いている。
つまり“商業的合理性の追求”とは“利益の飽くなき追求”という意味ではなく、“人間の動機づけ合理性の追求”という意味だった。 129P

リクルートの人事制度はオープンかつ柔軟なことで有名です。その根底に上記のような理念があることは非常に大事なことのように思えます。組織として継続的に成長していくため、徹底して組織内の新陳代謝を促す仕組みにこだわっているのだと思います。製造業のように何かを生産するのではなく、時代の要請にあわせて情報を加工、流通させる情報産業のあり方として感銘を受ける考え方です。

全体としてリクルートという会社の風土、組織を知るにはおもしろい本だと思います。ただ営業ノウハウを知りたいという点ではあまり触れられていないのでその辺はまた別途という感じです。